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日本のフェリー人口(2015年)

 「日本のクルーズ人口」については、毎年公表され、最近はメディアも取り上げるようになりましたが、「フェリー人口」はあまり話題にならないかと思います。ところが国土交通省(旧、運輸省)は、フェリーについても、律儀に統計を発表してきていました。
 とは言うものの、統計数字があちらこちらに散在していて、非常に判り難いことは否定できないでしょう。また日本のフェリー会社は非上場企業であることが多く、ヨーロッパの大手フェリー会社のように、業績が一般向けに開示されることは殆どありません。そうしたことから、新聞等のメディアが、乗船客数等の統計数字を報道することも、殆どありません。
 そこで私なりに、「日本のフェリー人口」を纏めてみることにしました。もっとも、水も漏らさぬ網羅的な統計情報を最初から目標にすると、挫折しかねないので、今回は概略的なところから纏めて行くことにしました(苦笑)。2016年9月現在、発表されている統計数字を拾っていくことにします。したがって、2014年から2015年にかけての数字、ということになります。

フェリー全般

 まずは、日本のフェリーの全般的な数字から見ていくことにします。ここで底本にしたのは、国土交通省海事局の『海事レポート2016 地域から、世界へ』(2016年)です。その「第1章 海上輸送分野」の「第II部 海事の現状とその課題」の中の「第3節 国内旅客輸送」で、フェリーについての概略が紹介されています(同書136頁以下)。

各航路事業の業種別概要数

各航路事業の業種別概要数

(出典:国土交通省海事局)

 この表で、「一般旅客定期航路事業」とされているのが、「フェリー(渡船・連絡船)」と「遊覧船の一部」の数字と見て良いでしょう。ところが「うちフェリー航路事業」という区分があるので、却って判り難いものになっています(苦笑)。
 ここでいう「フェリー」とは、「カー・フェリー」のことです。英語で「ferry」とは「渡船・連絡船」といった意味ですが、このうち車両を搭載する渡船のことを「car ferry」と呼びます(他にvehicle ferryとか、ro-pax ferryという言い方がされることもある)。ところがこの言葉が外来語として日本に輸入された時に、「カー・フェリー」の略語として「フェリー」という言葉が使われるようになったようなのです。そのため日本では、「フェリー」が「カー・フェリー」の意味で使われることがあるので、混乱することになりました。この表でいう「フェリー航路事業」は、「カー・フェリー航路事業」のことだと読み替えるべきでしょう。
 因みに、鉄道を搭載する渡船のことは英語で「train ferry」と言いますが(他にrailway ferryという言い方もある)、日本では「トレイン・フェリー」という外来語は使われずに、「鉄道連絡船」という訳語を当てて使われました。
 表からは、事業者数、航路数、隻数ともに、減少傾向にあるのが判ります。

旅客輸送実績

旅客輸送実績

自動車航送実績

自動車航送実績

旅客航路事業の収支状況の推移(航路損益)

旅客航路事業の収支状況の推移(航路損益)

長距離フェリー航路の輸送実績

長距離フェリー航路の輸送実績

(出典:国土交通省海事局)

 航路距離が300㎞以上のカー・フェリーを、日本では特に「長距離カー・フェリー」と呼んで区別していますが、これは全くの歴史的経緯による区分であって、船自体に着目した区分ではありません。しかし「長距離カー・フェリー」は、一般に大型船であることが多いと言えます。2016年4月1日現在、8事業者が、11航路で、35隻を運航しています。

離島航路

 2016年4月1日現在、一般旅客定期航路事業のうち、離島航路事業は、231事業者が、292航路で、548隻運航しています。

事業者経営形態・就航船舶

離島航路の旅客輸送実績・旅客航路の収支状況

離島航路補助金交付実績

(出典:国土交通省海事局)

北海道航路

 以上の数字で、フェリーに関する統計の大まかな概略を知ることができますが、航路別の統計のような、もう少し詳しい情報も知りたくなります。ところがそうした情報は、国土交通省が網羅的・統一的に公表しておらず、各地の地方運輸局が、バラバラに公表しているのが実情です。
 ところで長距離カー・フェリーは、「北海道と本州を結ぶ航路」と「本州と九州を結ぶ航路」に就航しています。そのため、北海道運輸局と九州運輸局の統計をみると、少なくとも長距離カー・フェリーについては概要を知ることが可能であることに気が付きます。
 そこで、まずは北海道運輸局が発表している統計から見ていくことにしましょう。ここでは、2016年2月に発表された「北海道の運輸の動き~26年度の北海道の運輸産業~」(北海道運輸局交通政策部消費者行政情報課、2016年)を底本にすることにします。

船舶輸送(フェリー航路別輸送人員)

船舶輸送(フェリー航路別輸送人員)

(出典:北海道運輸局海事振興部旅客・船舶産業課)

 ここでは「離島航路」「海峡フェリー」「中長距離フェリー」の3つに分類されています。「離島航路」はハートランドフェリー、羽幌沿海フェリー、「海峡フェリー」は津軽海峡フェリー、青函フェリー(北日本海運、共栄運輸)、そして「中長距離フェリー」は新日本海フェリー、商船三井フェリー、太平洋フェリー、川崎近海汽船の数字であることが判るかと思います。企業別に分類されていないので、少々意地悪な統計ですが、どの航路がどの会社によって運航されているかを知っていると、容易に概要が判ると思います。
 なお、年度欄にある例えば22年は、平成22年の意味で2010年、26年は2014年のことです。また「年度」なので、正確には「4月1日から翌年の3月31日まで」の数字ということになります。こうした日本の統計は、外国人には判り難いものになっていますが、日本人にとっても判り難いですね(苦笑)。

船舶輸送(フェリー航路別トラック航送台数)

船舶輸送(フェリー航路別トラック航送台数)

(出典:北海道運輸局海事振興部旅客・船舶産業課)

九州航路

 次に、南の九州運輸局が発表している統計を見てみましょう。ここでは2016年7月12日に発表された「平成27年度長距離フェリー・主要離島航路輸送実績について」(九州運輸局海事振興部旅客課、2016年)を底本にします。

長距離フェリー航路実績資料

長距離フェリー航路実績資料

(出典:(九州運輸局海事振興部旅客課)

 ここでは長距離フェリー航路を「北九州~阪神」「中九州~阪神」「南九州~阪神」、そして「北九州~京浜」の4つに分類していますが、「北九州~阪神」は阪九フェリー、名門大洋フェリー、「中九州~阪神」はフェリーさんふらわあ、「南九州~阪神」は宮崎フェリー、フェリーさんふらわあ、そして「北九州~京浜」はオーシャントランス(オーシャン東九フェリー)の数字です。また表に、例えばH18 とあるのは、平成18年の意味で2006年、平成27年というのは2015年のことです。

主要離島航路実績資料

主要離島航路実績資料

(出典: 九州運輸局海事振興部旅客課)

 九州の離島航路には87の一般旅客定期航路が開設されており、ここでいう「主要離島航路」とは、「壱岐・対馬」「五島列島」「甑島」「種子島・屋久島」「奄美・沖縄」と本土を結ぶ航路で、12事業者が16航路を運航しています。「本土~壱岐・対馬」は九州郵船、「本土~五島列島」は九州商船、野母商船、五島産業汽船、「本土~甑島」は甑島商船、「本土~種子・屋久」はコスモライン、種子屋久高速船、岩崎産業、折田汽船、「本土~奄美・沖縄」はマリックスライン、マルエーフェリー、奄美海運の数字ということになります。
 以上で、日本の内航フェリーの全てが明らかになったわけではなく、陸奥湾、東京湾、伊勢湾、瀬戸内海、鹿児島湾、南西諸島等にも、短距離航路や離島航路が数多くあります。しかし少なくとも、長距離カー・フェリーについては、何とか網羅できたかと思います。

国際航路

 最後に国際航路(外航航路)に就航しているフェリーについて、見ておきましょう。2016年現在、国際航路にはロシア、韓国、中国、台湾と日本を結ぶ航路があります。この統計については興味深いことに、例年、日本のクルーズ人口を伝えるプレス・リリースの中で発表されています。2016年6月2日に公表された「2015年の我が国のクルーズ等の動向について」(国土交通省海事局外航課他、2016年)には、次のような表が掲載されています。

外航旅客定期航路の日本人乗客数の推移

外航旅客定期航路の日本人乗客数の推移

(出典: 国土交通省海事局外航課)

 これによると、2012年以降、日本人乗客が激減しているのが判りますが、日本人客に限定した数字なので、統計として殆ど利用価値のないものになっています。
 しかし北海道運輸局の統計には、ロシア航路について、ロシア人等、日本人以外の乗客を含めた統計が発表されています。

ロシア航路の乗客数の推移

(出典:北海道運輸局海事振興部旅客・船舶産業課)

 この「北海道~ロシア・サハリン州航路」を運航していたのは、ハートランド・フェリーでした(2015年廃止、2016年よりSASCO(ロシア)が再開)。表にある17年は2005年、26年は2014年の意味です。
 また九州運輸局も、2016年6月30日に発表した「平成27年度日韓旅客定期航路の旅客輸送実績について」の中で、航路別・国籍別の旅客輸送実績を公表しています。もっとも当然ながら、阪神発着の韓国航路、中国航路の数字までは網羅されていません。

韓国航路の乗客数の推移

(出典:九州運輸局海事振興部旅客課)

 「博多~釜山」はカメリアライン、JR九州高速船、未来高速(韓国)、「対馬~釜山」はJR九州高速船、未来高速(韓国)、大亜高速海運(韓国)、「下関~釜山」は関釜フェリー、釜関フェリー(韓国)が運航しています。ここに掲載されているのは2015年の数字です。