映画で行く豪華客船の旅


 豪華客船を舞台にした映画にはどんな映画があるだろう。一連のタイタニック映画を除くと、実はそんなに多くな

い。


SPEED 2:CRUISE CONTROL (1997)

 最近製作された映画に、『スピード2』(1997年)があるが、この映画はSEABOURN CRUISE LINEのSEABOURN

LEGEND (10,000 G/T)という実在の船を舞台にしている。しかし、この映画を見てシーボンクルーズ社の船でカリ

ブ海クルーズを楽しみたいという気持ちにはどうしてもなれない。なぜならシーボンクルーズ社はおしゃれな最高級

クルーズをうたい文句にしていたはずなのに、映画の中に出てくる船員は決して品があるとは言えないし、船長も

ウイレム・デフォー(Willem Dafoe)演ずるシージャック犯人にあっけなく海に突き落とされて殺されてしまうからだ。し

かもどこかイモくさいジェイソン・パトリック(Jason Patrick)演ずるロサンゼルス市警の警察官は、船に弱いらしく、

ゲロゲロになっている。そんなさまを見ていると、いかに豪華船とはいえ一万トン程度の船なら外海に出ればふら

ふら揺れ出して、私も折角の料理を逆流させてしまう気がしてくるし、まあカリブ海クルーズと言ったところで、こん

なものかという気がしてきてしまうのだ。

 この原因はカリブ海やシーボンクルーズ社やシーボンレジェンドにあるのではなく、ひとえに脚本の悪さにあると

思う。その点で前作『スピード』(1994年)で主演をつとめていたキアヌ・リーブス(Keanu Reeves)が出演を拒否したと

いう判断は正しかったと思う。もっともサンドラ・ブロック(Sandra Bullock)の方は、前作でスターダムを築いたことか

ら、ヤン・デ・ボン(Jan De Bont)監督の出演要請を断りきれなかったのだろう。

 この映画を誉めるとすれば、ラストの船の疾走シーンの特殊撮影、コンピュータグラフィックスの見事さということ

になろうか。しかし、港に突っ込んで船は大破してしまい、果たしてシーボンクルーズ社の宣伝になっているのか大

いに疑問だ。また日本語の字幕が船の名前を「海の伝説号」としていたのも、私は不満だった。翻訳者が船やクル

ーズにあまり関心がないのか、それとも特定の船会社の宣伝にならないように敢えてそう訳したのかは、分からな

いが。

cover


THE POSEIDON ADVENTURE (1972)

 少し古くなるが、豪華客船が舞台のヒット作というと、『ポセイドン・アドベンチャー』(1972年)を挙げない訳にはい

かないだろう。そのころはパニック映画(disaster movies)という言葉があって、とにかく災害を描いた映画が多かっ

た。思いつくものだけでも、『大空港 (AIRPORT)』(1970年)、『大地震 (EARTHQUAKE)』(1974年)、『エアポート’75

(AIRPORT 1975)』(1974年)、『サブェイ・パニック (THE TAKING OF PELHAM ONE TWO THREE)』(1974年)、『ジャ

ガーノート (JUGGERNAUT)』(1974年)、『タワーリング・インフェルノ (THE TOWERING INFERNO)』(1974年)、そし

て『JAWS/ジョーズ (JAWS)』(1975年)があった。

 ここでクイズを出すことにしよう。全部答えられた方はかなりの映画通かもしれない。(解答はこのページの最後)

 (第1問)

  ・『ポセイドン・アドベンチャー』、『大地震』、『タワーリング・インフェルノ』、『JAWS/ジョーズ』に共通するスタッフ

   は誰か。

 (第2問)

  ・では『ポセイドン・アドベンチャー』、『タワーリング・インフェルノ』の二作品に共通するスタッフは誰か。

 (第3問)

  ・それでは『ポセイドン・アドベンチャー』、『タワーリング・インフェルノ』に、英国映画『ゴールド』を加えた場合に

   共通するスタッフは誰か。

 

 『ポセイドン・アドベンチャー』は、ニューヨークからアテネに向かう、POSEIDON号という架空の豪華客船を舞台に

する。クレタ島沖で起きた海底地震のため発生した津波により転覆した船から、6人の乗客が救出されるまでを描

いたスペクタクル映画だ。さかさまになった船の中で、希望を捨てずに船底によじ登っていくさまは、さながら旧約

聖書の「出エジプト記」であり、感動的ですらある。スコット牧師役のジーン・ハックマン(Gene Hackman)は、前年の

『フレンチ・コネクション(THE FRENCH CONNECTION)』(1971年)でスターとなった大器晩成型の俳優だ。

 ところで、今この映画を見直してみると、タイタニック号の遭難事件の影響をかなり受けていることがわかる。

まず、船の名前であるが、TITAN、POSEIDONと、何れもギリシャ神話に出てくる神の名前からとられている。またタ

イタニック号はニューヨークを最終目的地とする処女航海であったのに対し、ポセイドン号はニューヨークを出発し

てギリシャで解体されることとなっている老朽船の最後の航海という設定になっている。さらに面白いのは、何れも

船長は立派な人物であるのに対し、船主が狡猾な人間として描かれ、船主が安全性を無視して全速前進を命じた

ために災害が起きてしまった、という話になっている点だ。船の中の人物設定としては、こうした話の方が納得し易

いかも知れない。しかし今日では、ポセイドン号のレスリー・ニールセン(Leslie Nielsen)演じる船長はともかく、タイタ

ニック号のエドワード・J・スミス船長については、評価が分れ始めている。

 従来からタイタニック号遭難事件をめぐっては、乗客を救助したカーパシア号のアーサー・ロストロン船長は正し

い立派な船長であったのに対し、救助に駆けつけなかったカリフォルニアン号のスタンリー・ロード船長は完全に間

違ったことをした船長だとして語られることが多かった(もっともロード船長の評価をめぐっては労働組合を中心に

現在でも大変な議論がある)。しかし、スミス船長について語られることはあまりなかった。私はいかに船主である

ブルース・イズメイが全速前進を命じたとはいえ、氷山との衝突についてのスミス船長の過失は否定できないよう

に思われる。だから、1997年版の『タイタニック』を含め、船主だけを悪者として描くことには不満がある。

 『ポセイドン・アドベンチャー』は、1972年の作品だが、映画を見るとその頃のアメリカでは船旅がそれ程特別なこ

とでなくなっていたことがわかる。日本はやっとこの水準に達しつつあるようだ。

 なお、映画の撮影はロング・ビーチ港Pier Jに係留されている、QUEEN MARY号で行われた。また7年後に製作

された続編は、残念ながら論評するほどの作品ではない。

 

THE POSEIDON ADVENTURE (1972)

映画公開当時のチラシ


JUGGERNAUT (1974)

 最後に一本、『ジャガーノート』(1974年)という、あまり有名ではない映画を挙げておきたい。この映画も豪華客船

を舞台にする映画だ。しかしこの映画には、私は肩透かしを食らったといってよい。

 映画公開当時のポスターを見ていただくとお分かりになると思うが、BRITANNICという名の客船の船首部分には

爆発による大穴が開いており、逃げ惑う人々が描かれている。確かにこの映画が、『ポセイドン・アドベンチャー』の

興行的成功に刺激されて製作されたことは事実のようだ。しかし、いわゆるパニック映画を期待して見るとがっかり

させられることになる。むしろジャガーノートと名乗る爆弾犯人と爆弾処理班との手に汗握るサスペンス映画として

見るのがよいのだろう。爆弾処理班の班長はリチャード・ハリス(Richard Harris)、船長はオマー・シャリフ(Omar

Sharif)が演じている。

 この映画はビートルズ映画で名をはせたリチャード・レスター(Richard Lester)監督の英国映画だ。この英国映画

という点がこの映画を解く重要な鍵のようなのだ。

 映画はサウサンプトンの港を豪華客船が出港するシーンから始まる。通常、出港のシーンと言えば、最近の『タイ

タニック』のように楽しく高揚感溢れるものとして描かれるのが一般的だ。いや正確に言えばアメリカ製ハリウッド映

画ならばそう描くだろう。ところがこの映画はそうではない。ブラスバンドの女性は仕方なく演奏しているという風情

だし、空はどんよりと曇っている。この演出は一体何なんだろう。船出なんて所詮はこんなものさ、という英国人お

得意の皮肉なのかは、私には分からない。ひょっとするとそういう意図がなくても、英国で撮影すれば船出も白けて

映ってしまうということなのかも知れない。

 英国を訪れたことのある方ならば、英国のちょっと鬱病になってしまいそうな空気というのを知っていらっしゃるこ

とだろう。高緯度で日差しが弱いせいもあるが、写真を撮るとコントラストのはっきりしない、憂鬱な写真ができ上が

ってしまう。もっともこれがイタリアなどと違う英国の気品だとも言えるのだが。そうしてみるとあの『タイタニック』は

サウサンプトンの出港のシーンを華やかに描きすぎたとも言える。メキシコで撮影したせいか、日差しも強すぎる。

人々の表情も明るすぎ、英国的でない。実際はむしろ、この『ジャガーノート』のような船出だったのかも知れない。

 そして船はいよいよ北大西洋に乗出していく。楽しい船旅の始まりかといえば、何と荒れ模様の海に悩まされ客

の大半は、船室に篭ってしまうという、またまた意外な設定になっている。ここまでくるとこれはやはり英国映画だ

といわざるを得ない。しかし私としては、楽しいはずの船旅が爆弾犯人の出現によって恐怖のどん底に突き落とさ

れる、というアメリカ的単純映画の方が、ストレスが溜まらず好きだなぁ。

 映画の後半は爆弾犯人と爆弾処理班の攻防となる。最後に赤い線と青い線のいずれを切断すべきかという決断

を迫られるが、これは見てのお楽しみということにしておこう。

 

JUGGERNAUT (1974)

映画公開当時のパンフレットの表紙


(クイズの解答)

 (第1問)

  ・音楽の担当がすべてジョン・ウイリアムズ(John Williams)。

 (第2問)

  ・製作がアーウィン・アレン(Irwin Allen)。

  ・脚本がスターリング・シリファント(Stirling Silliphant)。

  ・特殊撮影がL・B・アボット(L. B. Abbot)。

  ・勿論音楽がジョン・ウイリアムズであることも正答です。

 (第3問)

  ・主題歌を歌っていたのが、モーリン・マクガバン(Maureen Mcgovern)。勿論第2問の解答としても正答です。モ

   ーリン・マクガバンは『タワーリング・インフェルノ』では歌手として出演し、歌っていました。

   "THE MORNING AFTER" 、"WE MAY NEVER LOVE LIKE THIS AGAIN" はこの頃のヒットソングでしょう。

 

  ・この頃の映画は、字幕を高瀬鎮夫さんが担当されることが多かったです(現在ビデオ化されている映画の字

  幕が、高瀬さんの字幕をそのまま使っていることもあります)。1970年の『ある愛の詩(LOVE STORY)』の名台

  詞、“Love means never having to say you're sorry.” を、「愛とは決して後悔しないこと」と訳された方です。

 

〔関連リンク〕

 The Internet Movie Database

 MovieWEB

 WAKWAK

 日本映画データベース

 

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04/02/28