フェリー利用の手引き


 船旅は楽しそう。しかし、船に乗ったことがないので、どこでどういう手続をすればよいかわからない。そういう皆さ

んもいらっしゃることと思います。実は私もはじめはそうでした。今回は簡単なフェリー利用のマニュアルを紹介す

ることとします。


 たとえば、首都圏に住むあなたが新潟からフェリーに乗って小樽に行き、北海道を観光してから、帰りは苫小牧

からフェリーで大洗に帰ってくるという計画を立てたとします。どうすればよいのでしょうか。

 そんなに難しくはありません。まず、新潟―小樽間のフェリーを就航させている新日本海フェリーのWebサイトに

アクセスして、運賃やダイア、予約状況などを確認し、予約の電話を入れればよいのです。このとき予約番号を教

えてくれる会社が多いので、その番号をひかえて乗船当日フェリーターミナルのカウンターで手続して運賃を支払

えば、引き換えに乗船券を発行してもらえ、後は乗船するだけとなります。もっとも、夏休みのように混雑する時期

の場合は、一定の期間内に乗船券を購入しないと、予約が取消されたものとして処理される場合もあります。しか

しこうしたことは、電話で教えてくれるはずです。また予約の電話は、大都市の支店にかけるといつも話中であるこ

とが多いので、あえて空いてそうな支店に電話をかけるという裏技(?)もあります。


 船室の等級は、2等、2等寝台、1等、特等、スイートルームなどとなっていることが一般的です。

 2等は、絨毯敷の大部屋で、枕と毛布だけというのが普通です。先の例にあげた新潟―小樽間だと運賃は5千円

程で、案外安く旅行ができます。ただ場所の指定がなく、荷物を置いて占拠することになるので、一人旅だと荷物

が心配でトイレにも行けないということがあるかも知れません。グループで旅行されるときは、この点の心配がない

のでよいでしょう。ゆっくり休めないかも知れませんが、深夜に出発する便ではすぐに朝が来ますから、それ程苦痛

ではないと思います。TITANICの3等ではありませんが、乗客同士のコミュニケーションが楽しめます。

 2等寝台というのは、鉄道の寝台車のようなものです。寝台の指定があり、カーテン等で仕切られるので、プライ

バシーが保てます。荷物の盗難の危険が全くないとはいえないものの、貴重品は身につけているようにしていれば

まず大丈夫だと思います。ただ、いびきの心配のある方は、人に聞かれてしまう危険があります。先の例では7千

円程の運賃です。

 1等は、2人部屋のことが多く、船によっては4人部屋があることがあります。設備は船によりますが、ベッド、テレ

ビなどがあり、しかしトイレなどはついていないものが多いです。運賃は2等の1.5倍以上です。

 特等は、船によってはそうした等級がないこともありますが、だいたいビジネスホテルのツインルームと思ってよ

いでしょう。ユニットバスがついています。運賃は2等の3倍以下です。このクラスになると快適な船旅が実現できる

ことになります。

 スイートルームは、寝室の他に居間や専用のバルコニーがついているものです。その船では最高の部屋となりま

す。バカみたいですが、フロントでスイートルームと告げて部屋に案内されるのは偉くなったみたいで気分が良いも

のです。ただ船によってはスイートルームといっても、名ばかりのものがあったりもします。何か記念すべき旅行の

ときに奮発して乗ってみてはいかがでしょうか。


 映画『TITANIC』をご覧になった方の中には、2等の乗客は2等の食堂しか利用できないのでは、という心配をされ

るかも知れませんが、こうした差別は原則としてないのでご安心を。もっとも、グリルの利用は1等以上ということも

船によってはあります。

 クルーズ客船の場合も同様です。ですから旅なれた方は、部屋にはお金をかけず、その分他のところで贅沢をす

る、という旅をされているようです。ただこの点も例外があり、QE2はキャビンによってレストランのグレードが異なり

ます。なおクルーズ客船の船室は、最低の船室でもフェリーの1等船室以上の設備と考えていいでしょう。


 カーフェリーでも旅客だけの乗船が認められています。乗船はフェリーターミナルからとなりますが、一般に交通

の便は悪く、歩くには遠いことが多いので、タクシーを利用すると良いでしょう。もちろん港によっては交通の便の良

いところもあり(大阪南港など)、連絡バスが出ているところもあります。乗船の2時間くらい前に到着していると間

違いが少ないかと思います。また例えば博多港といっても、中央埠頭と箱崎埠頭とでは大違いなので、こうしたこと

にも注意しましょう。


 帰りの手続も全く同様に苫小牧―大洗間のフェリーを就航させている商船三井フェリーのWebサイトを確認し、予

約の電話を入れるだけです。ただこのとき気をつけなければならないのは、フェリーは毎日運航しているとは限ら

ないということです。時刻表などで運航曜日を確認し、曜日を意識した旅行の計画を立てなければなりません。以

上述べてきたことは、海外のフェリーにも大体当てはまります。日本の旅行業者で手配してくれるところは殆どない

ので、インターネットか現地のホテルのコンシェルジュ(Concierge, Hall Porter)に頼むのがいいでしょう。

 また、「国際学生証(International Student Identity Card)」で割り引きになる遊覧船や、ヨーロッパではユーレイ

ル・パス(Eurailpass)」を使えば安くフェリーに乗船できる場合があります。時刻はThomas Cook, European

Timetable(英国では月刊、日本では季刊)で知ることができる場合があります。


 なおクルーズ客船の場合は、船会社、あるいは旅行業者の主催旅行として募集されるのが一般的なので、まず

旅行業者の発行するパンフレットなどを入手し、あとはそこに申し込むだけとなります(クルーズの取扱いに不慣れ

な一般の旅行業者よりは、船旅専門の旅行業者、あるいは直接船会社に申し込んだ方がトラブルが少ないかと思

います。)。


 船旅の楽しみにはいろいろありますが、私にとってはやはり食べることです。いろいろな船に乗りましたが、飯の

まずい船に乗ったことはありません。それだけ船会社も食事には力を入れているのでしょう。

 フェリーの場合、レストランの営業時間は、朝1時間半、昼1時間、夜1時間半などと区切って営業されているの

が一般的です。ですからぼやぼやしていると終わってしまうので、食事のアナウンスがあったらすぐにレストランに

向かうべきです。また売店の営業時間も区切られていることが多いです。この点クルーズ客船の場合は、軽食の

時間などがあり、どこかで何か飲食できるようになっています。もっともフェリーの中には合理化を進めて、自動販

売機と電子レンジしか搭載していないものも、例外的にですが、あります。


 船酔いの心配がある方もいらっしゃると思います。私の経験では、瀬戸内海のようなところでは、小さな船でも心

配はありません。問題は日本海や太平洋の荒波を進む航路の場合ですが、総トン数が1万5000トンを超える船の

場合はまず大丈夫です(これは国内総トン数の数字なので、クルーズ船などの国際総トン数では3万総トンに相当

します)。しかし冬の日本海の場合は少し覚悟がいるかもしれませんね。何でも船員に冬期手当という名の時化手

当が支給されるとか。酔ったなと思ったら、ビールでも飲んで寝てしまうか、甲板に出て遠くを眺めているのが一番

だと思います。理屈では、うねりの最大波長は150mなので、これよりも長い船ならばうねりを吸収し、縦揺れ

(pitching)は生じない。フィン・スタビライザーがあれば、横揺れ(rolling)は生じないということになりますが、時化れ

ば揺れるのが船というものです。心配ならば酔い止めの薬を飲んで乗船されてはいかがでしょうか。すると大した

ことなかったということになって、次回から自信をもって乗船することができると思います。


 船の1日は飛行機の1時間と言われます。何事も早くしないと気が済まない人は船ではなく飛行機を利用するの

でしょう。もちろん飛行機の旅もそれなりに楽しいものです。しかし、船旅はいいですよ。甲板に出てぼんやりと海を

見ていると心が安らぎます。一度ハマルと病み付きになります。今度の休みは船旅にされてみては。

Warning: Cruising Is Addictive!


 付録として、クルーズ客船についても述べておきます。クルーズ客船は船舶を物資輸送以外の目的に活用する

船舶で、その点でフェリーと異なりますが、旅客船である以上、基本的にはフェリーと同じです(もちろん船舶安全

法上の航行区域が異なるとか、洗濯士などのサービス要員が乗船しているかといった違いはありますが 。)。日本

のクルーズ客船は総トン数2万トンから3万トン程度で、国際総トン数に換算すると3万トンから4万トンになるフェリ

ーよりは、一回り小さな船と見て良いでしょう。ただ長距離フェリー(クルーズ・フェリー)に恵まれない首都圏にお住

まいの方にとっては、船と言えばクルーズ客船という方もいらっしゃることでしょう。


 クルーズ客船の旅行代金ですが、宿泊代金の他、食事やエンターテインメント、さらに移動も込みの料金なの

で、「一見高いようだけれども実は安い」という説明が一般になされます。確かにカリブ海クルーズなどの中には7日

間1人400ドルという激安クルーズもあり、この説明は全くのウソではないのですが、ヨーロッパ・極東、とりわけ日本

の客船の料金が極めて高いことは否定できないでしょう。大体、1泊1人4万円前後からというのが相場です。庶民

の感覚では、「この半額だったら」という感じではないでしょうか(もっとも船を維持するには、燃料費、保険料、減価

償却費、人件費などの経費がかかり、1日に相当額は稼がないと赤字になることを考えると、経営者のご苦労も分

かりはしますが…乗船客としては分かりたくないことですね。)。


 また陸上のリゾートと比較してみると、クルーズ客船は「料金が高くサービスが悪い」ということになりそうです。例

えば食事ですが、船の厨房は火災予防のため火が使えないので、電気か蒸気釜で調理することになります。また

毎日食材を調達できないので(当然ですよね)、冷蔵品や冷凍品に頼らざるを得ないという事情があり、その点で

陸上と比べ制限があります(さらに海外の大手クルーズ客船会社では、陸上で予め加工した物や缶詰などを使用

していることが多いので、実質的には日本のファミリー・レストラン並みだとも言えます。大衆船の場合、1日1人当り

8ドルから11ドル、その上のクラスで8ドルから18ドル、超高級船クラスで25ドルから30ドルの食費という報告もあり

ます)。

 内装についても、最近、長距離フェリーの設備が各段に良くなったこともあって、期待しすぎるとガッカリするかも

しれません。もちろんクルーズ客船にも色々あって高級船は立派な内装なのですが、SOLAS条約(海上における

人命の安全のための国際条約)による制限から、陸上の建造物と同じ建材は使えないというハンデがあります。

 また、エンジンのついた乗り物ですから、振動や騒音、揺れはあるわけで、どんなに世界一といっても、陸上の施

設には及ばないでしょう。これは確かなことです。


 ここまで来ると、「あれれ、このサイトの作者は船よりは陸上のリゾートが良いといっているのかしら」と思われる

かも知れません。もちろんそういう意見は否定はしません(笑)。船会社のパンフレットやマスメディアの紹介を信じ

て陸上のリゾート以上のものを求めて、高額の料金を支払って乗船して、失望する人はかなりいるのではないかと

思うからです。確かに南の島の「水上コテージ」とかにはかないませんね。しかしこれは宣伝が悪いと思うのです。

「豪華客船」という、よくあるコピーも人を惑わすものです。

 ここで原点に立ち返ってみると、海は人の命を奪うこともある恐ろしいところでもあります。「板子一枚、下は地

獄」という言葉はご存知でしょう。船乗りの家には必ず神棚が祭られているはずです。そうした海の上で、現在は海

水の風呂で我慢する必要もなく、清水は事実上使い放題で、陸上のホテルのような生活ができ、移動もできるとい

うのがクルーズ船なのです。そう考えると、「豪華客船」という言葉の本当の意味も分かろうかと思います。ホテル

「並み」とはこういう意味でしょう。そうした事情を踏まえた上でパンフレットを読む必要があります。ですがクルーズ

客船には「豪華客船」という信仰(?)が根強くあって、「クルーズ自慢をするお金持ち」がわがままに振舞っている

光景に出くわすこともあって、閉口することは事実ですね(因みに日本のクルーズ船は市場が小さいため、高齢の

富裕層を対象とせざるを得ず、船客の約80%を占めるそうした客層のリピーターが多いのが実情です。狭い船上

でのロング・クルーズでは、乗客同士の人間関係がこじれることもしばしばあると聞きます。)。

 なお外国船も同様で、日本ではプラスの情報しか流されていないことと、日本人の欧米人に対する劣等感から、

外国船はすべて良いとする風潮がありますが、良い船もあれば悪い船もあるわけで、すべての船が良いわけでは

ありません(当然のことでしょう)。語学力も、あるとかえって不愉快な場面に遭遇する確率が高くなるものです(逆

に何も分からないと「映画のような世界」だと無邪気に楽しめるもの。笑)。

 北米のクルーズ産業の内幕を報告するものとして、Ross A. Klein, Cruise Ship Blues, The Underside of the

Cruise Industry, (New Society Publishers, 2002)がありますが、それによるとクルーズ船は必ずしも安全な場では

なく、衝突、座礁、高波によるバルコニーや船室への浸水などの他、食中毒(小型球形ウイルス等)、性犯罪(強

姦、強制わいせつ等)の事件も多く、更に大気汚染、海洋汚染、(主として途上国出身スタッフの)劣悪な労働条

件、セクハラ問題等が報告されています。海外紙を見ていると、残念ながらそうした記事を目にすることは珍しくな

いので、この本に報告されている事例は概ね事実でしょう。もっとも一般の社会に比べれば事件の数が少ないとい

うことは統計学的には言えることですが、乗船客として以上の事実は心に留めておく必要はありそうです。

 クルーズ船選びの信頼できる情報源の一つとして、Douglas Ward, Complete Guide to Cruising & Cruise Shipsと

いうベルリッツ社から出版されているガイドブックがあります。この本はクルーズ客船を格付けているものですが、

単に星の数だけではなく、コメントを注意深く読むと、船の様子がかなり正確にわかります。目安として4+以上で、

「クルーズの体験」の項目の点数が高い船を選択すると良いのではないかと思います。「料金が高ければ良く、安

ければ悪い」という単純なものでもなく、「大きい船が良い」というものでもないので、複雑です(一般に大型船は大

衆船であり設備は良いが、安価な分サービスが悪いもの。ホテル・遊園地と同じ。)。また高いサービスを受けるた

めには、それ相応の語学力が要求されることになります。

 「陸上のリゾートに行くか、クルーズ客船に乗るか」で迷っている方は、まず長距離フェリーに乗船してみてくださ

い。で、気に入ったならば、多分船が性に合うはずです(逆にあんなの耐えられないという方には無理には勧めま

せん)。その後は4+以上の船を選択すれば、外れは少ないと思います(保障はしませんが)。そして、クルーズ客船

に幻滅した上級者の方は(そういうのがあるのかどうか知りませんが)、いよいよ、ナロー・ボート、ヨット、あるいは

貨物船(貨客船)によるクルーズへと進むことになるのでしょう。


流れている曲の著作権は、Classic MIDI Roomに属します。

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03/01/26